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札幌高等裁判所 昭和53年(ネ)194号 判決

控訴人(原審被告)

山口土地株式会社

右代表者

山口信吉

右訴訟代理人

牧口準市

大塚重親

被控訴人(原審原告)

日糧不動産株式会社

右代表者

武田正年

右訴訟代理人

田村誠一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一原判決請求原因事実〈編注・控訴人と被控訴人間の売買契約の締結〉は当事者間に争いがない。また、同抗弁1の事実〈編注・期限延期の特約〉及び2の事実〈編注・給水設備工事の遅延〉のうち、控訴人主張のころ札幌市の工事が完成したとの事実を除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉によれば、通称東海団地への札幌市による水道施設工事は昭和五二年一二月二七日ころ完成し、昭和五三年一月七日付で通水を開始し、同年一〇月三〇日付で右の施設が同市の施設とされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二1  そこで、控訴人の主張する抗弁1の特約につき、その意味内容を検討するに、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  控訴人と被控訴人間に、昭和四八年六月二五日、原判決別紙物件目録1ないし10記載の土地(以上本件土地という)につき、原判決請求原因1項の本件売買契約が成立したが(以上の点は当事者間に争いがない)、その際、控訴人から、本件土地上に電力会社の送電線が存在する旨の説明はあつたが、本件設備の存在については何らの説明もなかつたこと、被控訴人は本件売買契約に先立つて、不動産仲介業者佐々木四郎の案内で本件土地の下見をしたが、比較的大手の不動産業者であつた控訴人の説明を信用したこと、当時本件土地上には草木が繁茂していたため見通しが不充分であつたことから、その外郭を廻つて調査したに止まつたこと、右佐々木も本件設備の存在について何らの説明もしなかつたこと等から、被控訴人は、本件売買契約時において、本件1、2の土地上に本件設備が存在していることを全く知らなかつた。

(二)  被控訴人は、昭和四八年九月ころ、本件土地の実測にその社員が立会つたことから、初めて本件設備が存在していることを知り、控訴人の副社長山口正男、前記仲介業者佐々木四郎に抗議したところ、山口正男は、右設備は遊休施設だから撤去してもよいと回答したため、被控訴人において調査してみると、本件設備は控訴人の所有物ではなく北海道宅建生活協同組合の所有物で、現に通称東海団地の給水用として使用されている簡易水道設備であり、取こわすことはできず、また札幌市による右地域への給水見通時期ははつきりしないことが明らかとなつた。

(三)  そこで、被控訴人は、そのころ、控訴人に対し、本件土地内に他人の権利の目的物が存在することは右土地の利用に支障があるとして、本件売買契約のうち本件設備の存在する本件1、2の土地につき一部契約を解除し、その分の売買代金として、七〇〇〇万円ないし八〇〇〇万円程度を減額するよう申入れたが、控訴人は右団地に対する札幌市の給水施設が一年半後には完成することになつており、本件設備をそれまでに撤去するから待つてほしいと懇請して、本件売買契約の維持を求めた。

(四)  右懇請について、被控訴人代表者武田正年は控訴人副社長山口正男に対し、東海団地に対する札幌市の給水施設工事が一年半の期間中に完成することを控訴人が保障しうるはずはないから、本件設備が撤去されることについて責任をもちうる期間を余裕をもつて決定して貫いたいと申入れた結果、右両者間に昭和四八年一一月二日ころ、原判決請求原因3(二)、(1)及び(2)の合意が成立した。右合意の内容は、控訴人の申出た一年半の期間をその約二倍に当る三年間に延長するかわりにその期限を厳守するというものであつたが、更に山口副社長に対し、万一右札幌市の工事が山崩れ、出水、地震などの天災地変で延期されたときは勘弁してほしい旨の申入があつたので、武田社長もその場合は止むを得ないこととして了承した結果、被控訴人と控訴人との間に、前記合意に付加して、天変地異等自然界の異変により札幌市の前記工事期間が延長されたときに限定して、その場合に限り、控訴人の義務履行期限も延長される旨の合意が成立した。

なお、以上の合意成立の際、控訴人も被控訴人もいわゆるオイルシヨツクによる右工事の遅延などは全く考慮していなかつた。

(五)  右被控訴人代表者と控訴人副社長との合意に基づき、被控訴人の常務取締役網谷重昭がこれを文書化し、これに基いて昭和四八年一一月二日、同人及び山口控訴人副社長との間で、被控訴人の親会社である日糧製パン株式会社の常務取締役中川正三も加わつて、「昭和五一年一〇月末日までに左記各項目が履行されない場合、抵当権を即時無償で解除するものとする。但し天変地異等売主の責に帰さない理由によつて期日延長せざるを得ない場合は、この期間を延長することができる。」旨を付記した控訴人名義の誓約書が作成されて、被控訴人宛に差入れられた。

2  以上の各事実が認定でき、〈る。〉

なお、前記〈証拠〉中には、前記1(五)に判示した文言が記載されており、右文言のみからみれば、「天変地異等売主の責に帰さない理由」とは、天変地異等自然界の異変に限らず、その他売主の責に帰さない理由一般を指称するように解せられないでもないが、前記説示したとおり、右文言は被控訴人代表者武田正年と控訴人副社長山口正男との間に成立した合意を被控訴人の専務取締役網谷重昭が文書化し、これを控訴人の被控訴人に対する誓約書としたものであるから、その内容は専ら前記武田正年と山口正男との間の合意を基準として解釈すべきものであることは当然であるところ、右合意は前認定の通り天変地異等自然界の異変の場合に限り期限を延長する趣旨である以上前記文言も同趣旨に解すべきものと認めるのが相当である。

従つて、いわゆるオイルシヨツクに伴う経済不況のため札幌市が緊縮財政政策をとり、そのため昭和五二年末まで東海団地への給水設備の工事期間が延長されたとしても、右事実は、前説示の通り被控訴人と控訴人間で取決めた限定的延長事由である自然界の異変に該当するとはいい難く(いわゆるオイルシヨツク等の経済事情の変動は天変地異等自然界の異変に含まれるものとは認められない)、その他本件全証拠によつても、控訴人主張の抗弁事実を認めるに足りない。

三そうすると、昭和五一年一〇月末日までに札幌市の東海団地への給水工事が完成しないことにより、前記被控訴人主張の停止条件は成就し、控訴人が本件売買契約の残代金三〇〇〇万円の債権を放棄する旨の効力が発生し、従つて右の債権を被担保債権とする原判決請求原因2項(二)(2)の抵当権設定登記も抹消されるべきである。

また、原判決請求原因4項の事実は当事者間に争いがないから、被控訴人には本件売買契約の売買残代金債務不存在確認を求める訴の利益がある。

四以上の通りであつて、被控訴人の本訴請求はすべて正当として認容すべきところ、右と同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条一項により本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用し主文の通り判決する。

(安達昌彦 渋川満 大藤敏)

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